【目次】
自分の力を試したい
お店の運営効率を高めるためには、仕事の標準化が不可欠です。それはまた、QSCのスタンダードを守るための必須条件です。
しかし、ここで忘れてはいけないことは、働く人たちは人間だということです。これほどわかり切ったことはないはずなのだが、意外と盲点になりやすい。
お店はひとつの組織体であり、経営者⇒管理者(店長)⇒監督者(店長代行者)⇒一般従業員というように階層がわかれているのが普通です。よく大企業のサラリーマンを機械の歯車にたとえるが、飲食店のような小さな組織でも事情は変わらない。
一般従業員は、社員、パート・アルバイトともに歯車のひとつとして動いている。基本的マニュアルの手順に従って決められた仕事をする、というのは彼らの役割です。
こういう組織づくりをするのは、それがもっとも費用と効率の論理に合致していると考えられているからだが、こういう組織であることがかえって、従業員の働く意欲を失わせることになりかねない。
人間は本質的に、仕事においての自己実現の欲求があるからです。
もちろん十人十色なのだから、与えられた仕事を決められたとおりにこなして給与をもらえれば、何も文句はないという人もなかにはいます。しかし、私は心理学の学者ではないから断言はできないが、口ではそう言っている人でも、内心、「もっと自分の力を試したい」とか、「もっと自分の能力を発揮したい」と多くの人が思っているものだと思う。
つまり、仕事の分業と標準化を推し進めていけばいくほど、働く人たちに一種の疎外感をもたらすことになる。それがやる気を失わせてしまうのです。
そして、そういう部下を「生意気だ」などとけなす店長も少なくないですが、はっきりいってそういう態度は間違っている。人間であれば当然のことなのです。
従業員に参加意識をもたせる
組織が機械的なのは仕方がない。問題は、その動かせない前提のなかで、いかに人間らしく彼らが働けるようにしてあげられるか、ということです。
誤解のないように断っておくが、飲食店の仕事が非人間的だなといっているのではない。ただ、経営者や店長の考え方次第で、もっと生き生きと働ける職場にすることができるということ、そこを真剣に考えていかないといけないのです。
一番大事なことは、従業員1人1人に「自分もお店の運営に参加しているのだ」という意識をもたせることです。
誰でも自分がお店の一員だ、というくらいの意識はある。しかし、それだけでは積極的に組織に協力しようという意欲にまでは高まらない。自分の考え方や力がお店をよくしている、という充実感があってこそ、チームワークもよくなるし、仕事の効率も高まるのです。
従業員との信頼関係を築くポイント
では、従業員に「参加」意識をもたせるにはどうすればいいのか。
まず前提として、店長と従業員の間の強い信頼関係がなければならない。そのうえで、
①知らせるべき情報を的確に知らせること
②自由に提案できる雰囲気をつくる
③任せてよい仕事は部下に任せる
以上の3点が大事なポイントになる。
店長は、お店の最高責任者であり、命令者でもある。しかし、部下が十分にその命令の意図を理解していなければ、笛吹けど踊らずという結果を招く。また、会社の方針について店長が話すことで、部下の意欲が高まるばかりでなく、知識も増える。これも大事な点です。
たとえば、店長はいつも人時売上高を気にしているが、その人時売上高とはどういうことなのかを知るだけで、毎日の仕事の励みになるものなのだ。同じイベントを実施するにしても、その目的を細かく語ることで、部下は自分の行動目標をより明確に理解できるようになる。
提案が「参加」意識を増大させることは、いうまでもないだろう。ただ、口でいくら「提案しなさい」といっても、それが自由にできる雰囲気がなければ、部下は口を開かない。大事なことは、職場が権威主義に支配されていないことです。
そして、権限の委譲です。よく、自分がやったほうが早いからと、何でも自分でやってしまう店長がいるが、店長のこういう行動が部下に疎外感を味あわせてしまうのです。
もちろん仕事を任せるように日ごろから訓練しておかなければならないわけだが、逆にいえば、権限を委譲することが訓練の目標になっているべきなのです。部下は口には出さなくても、もっと任せてほしい」と思っているのです。
最後に
最強のチーム編成をつくる
部下の能力は1人1人違う。当たり前のことです。しかし、組織内の仕事とは必ずしも個々の能力だけで決まるものではない。
部下のやる気はもちろんのこと、店長と部下そして部下同士の人間関係によって、齟齬との成果は大きく違ってくる。
つまり、よく訓練された部下が強い協力関係にあり、かつ店長との信頼関係が確固としていれば、最強のチーム編成ができるわけです。そのチームの要となるのが、1人1人の「参加」意識です。
個々の能力が違えば、当然、部下1人1人の行動目標は違ってくる。しかし、売上予算達成という最終目標が全員同じであれば、役割分担がスムーズにおこなわれ、相乗効果が発揮される。
チームでは1人プラス1人、イコール2人とは限らない。3人にもなるし1.5人にもなる。そのカギを握っているのが、部下のお店の「経営」に対する「参加」意識なのです。